2022/01/06

カルマン渦の不思議と勘違い

カルマン渦とレイノルズ数

カルマン渦 (Karman vortex) は,流れのなかに障害物を置いたとき,その後方に交互にできる渦の列です.図1にそのアニメーションを示します.左から右に一様な流れがあり,その途中に円柱が置かれえいるモデルです.円柱の下流に特徴的な渦列ができています.

図1 円柱の後ろにできたカルマン渦. 円柱の両側の流れが異なる色で表示され、渦が交互になっています.作者: Cesareo de La Rosa Siqueira.Wikimedia Commons より.

このカルマン渦が生じる条件は,レイノルズ数で決まります.レイノルズ数 \(Re\) は \begin{align} Re=\frac{\rho v L}{\mu}=\frac{vL}{\nu} \end{align} です.ここで,\(\rho\) は流体の密度,\(v\) は流体の速度,\(L\) は特性長さ,\(\mu\) は流体の粘性係数,\(\nu\) は流体の動粘性係数です.流体の現象が慣性と粘性のみの場合,レイノルズ数が等しいと,流体の流れは相似になります.すなわち,スケールによらず同じ形 (相似) のな流れになります.これを「レイノルズの相似則」と言います.

カルマン渦が小さなスケールでも大きなスケールでも同じような渦が生じるのは,この相似則のなせる技です.カルマン渦が生じるのは範囲は,レイノルズ数 \(Re\) が 103 から 105 の範囲です.この範囲だと,スケールによらず相似なカルマン渦になります.

長年の勘違い

このカルマン渦は,レイノルズ数のみで決まるので室内の小さな流れ (数 cm) から自然界に発生する大きな流れでも起きます.例えば,図2は人工衛星から観測した MODIS の画像で,とても大きなカルマン渦が見えます.流れの始まりの左上の直径 11 km くらいの小さな島です.200 km くらい続くとても大きな流れです.

図2 トリスタンダクーニャ島沖のカルマン渦.NASAのテラ衛星による観測.画面全体は約 450 km × 270 km です.Wikimedia Commons より.

私の長年の勘違いは,この大きなカルマン渦のレイノルズ数も 103 から 105 の範囲と思っていました.この人工衛星の写真の流体の速度 \(v\) は1 m/s から 10 m/s 程度,\(L\) は島の直径で 11×103 m,動粘性係数 \(\nu\) は10-5 m2/s 程度です.したがって,レイノルズ数は 109 から 1010 と非常に大きな値になります.通常,これは乱流です.それにもかかわらず,カルマン渦が生じるのは何かもっと奥深いものがあるようです.私は流体の専門家ではないので,これ以上はわかりません.詳細は「Evolution of an Atmospheric Kármán Vortex Street From High-Resolution Satellite Winds: Guadalupe Island Case Study 」に書かれています.

流体の運動は不思議だ

気体や液体のように引きちぎられるものが,数百 km におよぶ規則的な模様ができることは驚きです.それとともに,その振動の周期が遅いことにも驚かせる.自然って,不思議です.

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