2021/11/17

緑と二酸化炭素の関係

先日,テレビのニュースで,二酸化炭素削減に関する報道を見た.その中で,若者が「緑を守れ」というような趣旨のデモを行っている映像が流れた.詳細は忘れたが,二酸化炭素を削減するために,緑を守れと言うような趣旨であった.これに関して,私は少なからず違和感を覚えた.「本当に,緑を守ったら,あるいは緑を増やしたら二酸化炭素が減るのか?」という素朴な疑問である.

人間の呼吸と森林の二酸化炭素の吸収量

植物は,永遠に二酸化炭素を酸素に変えているわけではないです.確かに,植物は光合成により,二酸化炭素(CO2)を取り込み酸素 (02) を排出します.残った炭素 (C) は植物自身が溜め込みます.二酸化炭素を取り込んだ分だけ,植物自身が重くなります.したがって,植物自身が成長し重くなる限り二酸化炭素を取り込みますが,成長が止まると二酸化端をを取り込みません.植物は大気中の二酸化炭素を取り込み,炭素をその体に溜め込んでいるだけです.

森林と二酸化炭素の関係は,関東森林管理局の「森林の二酸化炭素吸収力」に詳しく書かれています.それを要約すると,次のとおりです.

  • 一人の人間が呼吸により排出する二酸化炭素は年間約 320 kg で,これを吸収するためには杉の木が23本必要です.
  • 50 年生スギの人工林面積 1 ha 当たりの炭素貯蔵量は170トンです.1本当たりでは約 190 kg に達すると試算されています.これを 50 年で割れば1年間平均で 1 本当たり約 3.8 kg の炭素 (約14kgの二酸化炭素) を吸収します.
50 年生スギの人工林面積 1 ha 当たりの年間の炭素の貯蓄量は,3,400 kg で,二酸化炭素だと 12,500 kg です.したがって,1 ha の杉の林で 39 人分の呼吸を賄うことができます.日本人全体で,3.2×106 ha (32,000 km2) の杉の林が必要になります.日本の面積は 378,000 km2なので,十分,人間の呼吸による二酸化炭素の排出を吸収することができます.人の呼吸による二酸化炭素の排出は微々たるものですが,植物による二酸化炭素の吸収量の目安を知るにはわかりやすい指標です.

人に限らず動物の呼吸による二酸化炭素は,もともと植物由来なのです.そのため,大気中の二酸化炭素の増減には寄与しないことに注意が必要ですね.

森林はある程度の年数が経ち成長が止まると,二酸化炭素を吸収しなくなります.そのため,適当な時期に伐採する必要があります.伐採した森林から得られる材木を燃やすと二酸化炭素が発生します.したがって,二酸化炭素を蓄える目的ならば,燃やすことはできませんね.

日本の排出二酸化炭素を森林で吸収

日本が排出している二酸化炭素は,主に原油や石炭,LNG由来の炭素が元です.環境省のデータによると,2018年度の総排出量は,1.247×1012 kg です.一人あたりにすると,1×104 kg です.10 トンです.呼吸の 31 倍の二酸化炭素を使っています.日本が放出する二酸化炭素を森林で吸収するとなると,日本の面積の2.6倍必要になります.とても無理な話です.

世界の排出二酸化炭素を森林で吸収

2018年の世界の二酸化炭素の総排出量は 335 億トンです.南極大陸をのぞいた陸地の 74% を森林で覆えば,何とか排出量を吸収できます.森林を植えておくだけではだめで,適当に伐採も必要になります.陸地の74%を森林で覆うのはとても無理な話です.

とはいえ,植物も結構頑張っていることが分かります.しかし,人類が排出する二酸化炭素を植物で吸収することは,とても無理な話であることが分かります.二酸化炭素の排出を減らすしかないですね.

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